優しい彼の裏の顔は、、、。【完】
「うん、確かに傷は大した事ないね。とりあえず絆創膏を貼っておくよ」

 詩歌の恥ずかしさに全く気付いていない郁斗はマイペースに傷口を確認すると、用意してあった救急箱から絆創膏を一枚取り出し、傷口に合わせて丁寧に貼り付けた。

「……ッ、……」

 その際、彼の指が肌に触れて(くすぐ)ったさを感じて反応した詩歌は吐息のような声を漏らしてしまい、更に頬を赤く染めていく。

「痛かった?」
「い、いえ……、大丈夫です! ごめんなさいっ!」
「そお? あ、もう終わったからスカート下げて大丈夫だよ。脚、冷えちゃうからね」
「は、はい! すみません」

 絆創膏を貼り終えた郁斗は足が冷えるからとスカートの裾を下げるように促すと、慌てて裾を下げた詩歌は先程借りたブランケットを上から掛けて脚を隠した。

「さてと、手当も済んだ事だし、そろそろ本題に入ろうか」

 そして、救急箱を片付けた郁斗が再びソファーに座ると、未だ恥ずかしさを滲ませていた詩歌にそう声を掛けるも、彼女は何故かきょとんとした表情で首を傾げた。

「ほ、本題……?」
「嫌だなぁ、詩歌ちゃん、キミの事だよ。さっきキミが誰かから逃げてるワケありさんっていうのは分かったけど、それをもう少し詳しく話してほしいんだ」
「あ……、そ、そうですよね……」

 郁斗に言われて詩歌は自分が置かれている状況を改めて自覚し直すと、一旦小さく深呼吸をした後、

「実は私、京都にある実家から……家出して来たんです」

 この東京へ、大したお金も持たずにやって来た経緯を一から説明し始めた。
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