優しい彼の裏の顔は、、、。【完】
 時同じく帰宅したばかりの郁斗は、

「郁斗さん、どうかなさったんですか?」

 美澄を見送ろうとしたタイミングで樹奈からの電話を受けた彼は、彼女の切羽詰まった声を聞いてただ事ではないと感じていた。

「……悪い、もう一度出て来る」
「え?」
「何か問題あったんすか?」
「……ああ、恐らく……樹奈が誰かに脅されてる」
「え? そんな……」
「もしかして、黛組の奴らですかね?」
「何とも言えないね。それを確かめる為にも、行くしかない」
「いやでも、郁斗さん一人は危険すよ」
「小竹を連れてくから平気だよ」
「いや、相手は何人居るか分からないっすから、俺も行きますよ」
「美澄は駄目だ。詩歌ちゃんの傍に居てくれないと困る」
「けど……」

 樹奈が何か危険な目に遭ってると知った詩歌は、彼女の身を案じて不安そうな表情を浮かべながら何かを考え、

「あの、郁斗さん。私も樹奈さんの所へ連れて行ってください」

 怒られる事を覚悟でそう口にする。

「詩歌ちゃん、キミ、自分の立場、分かってる?」
「はい」
「いや、分かってないね。分かってたら今みたいな言葉は出て来ない」
「でも、もしかしたら樹奈さんが脅されているのは、私絡みかもしれませんよね? それなら私、彼女を放ってはおけません」
「いや、まだ詩歌ちゃん絡みとは決まってない。樹奈自身、結構ヤバい連中と繋がりもあるようだから、そこから何かあって俺に連絡をして来ただけかもしれないし」
「でもっ!」
「いい加減にしろよ!」

 一歩も引かない詩歌に苛立ちを感じた郁斗は彼女を一喝する。

「……仮にお前絡みだったとしても、何も出来ないお前が来て何になる? 足手まといになるだけだろ? いいから大人しくここで待ってろ。美澄、後は頼むぞ」
「は、はい……」

 そして、詩歌に背を向けたまま素っ気ない言葉を放った郁斗は、美澄に彼女を託して一人部屋を出て行った。
< 102 / 192 >

この作品をシェア

pagetop