優しい彼の裏の顔は、、、。【完】
「よぉ、郁斗ぉ……久しぶりだなぁ」
「お前は……迅か?」
「ご名答~」
「お前が俺に何の用だ? 樹奈はどうした?」
「ああ、あの女なら仕事紹介してやるから別のヤツに預けたぜ。あくまでもお前を呼んでもらっただけさ」
「仕事? お前が紹介する仕事なんざ、ろくなモンじゃねぇだろうが。樹奈は返してもらう。居場所を教えろ」
「ひでぇな、俺だってまともな仕事くらい紹介するぜ? ま、居場所くらいは教えてやってもいいけど、もう手遅れじゃね? 今頃薬で頭やられてるって」
「お前、まだそんなモンに手出してんのか?」
「俺はやってねぇよ。周りが勝手にやってるだけ。俺はそれを斡旋してるだけだよ」
「はあ……。テメェは、何も変わってねぇな」
「お前もな」

 二人はその昔、お互いがまだ学生だった頃、同じ暴走族グループに属していた事があった。

 しかし当時から馬が合わなかった二人はしょっちゅう喧嘩をした挙句、迅は薬に手を出した事がバレて逮捕されていた。

 それ以降迅の行方は分からないまま月日は過ぎ、郁斗がホストやスカウト業を経て市来組に身を置いた際に迅の名前を何度か耳にした事はあったものの、特に関わり合う事はなかった。

 そんな迅は現在、様々な裏組織や海外の密売人と繋がり、武器や薬を様々な所へ横流ししているのだ。

 そんな彼が今頃になって何故郁斗とコンタクトを取りたいと思ったのか、郁斗自身大体の予想はついていた。

「単刀直入に言う、お前、花房 詩歌って女を匿ってるよな? 黛さんが探してる。俺に渡してくれよ、その女」
「断る……と言ったら?」
「そうだなぁ、まあ、どんな手を使ってもテメェからその女を奪い取るだけだなぁ?」
「だろうな」

 詩歌が心配していた通り、今回の事は彼女絡みで間違いが無い事は郁斗も分かっていた。

 だから、詩歌だけは迅に近付けさせないよう冷たく突っぱねたのだけど、状況は最悪だった。

 そうとは知らない美澄と詩歌は小竹から場所を教えて貰い、既に近くまでやって来ていた。

 美澄たちは、完全に近付かなければ大丈夫だと考えていたのだけど、迅は抜かりの無い男で既に周辺に黛組の組員たちを配置させていて、ここへ来る事自体、危険が避けられない状態に追い込まれる事になるのだ。
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