優しい彼の裏の顔は、、、。【完】
「おう、俺だ。ああ、そうか。分かった。何? 写真と顔が違う? それなら締め上げて名前を吐かせろ。ああ、多少痛めつけても問題ねぇよ。とにかくその女さえ手に入ればいい」

 郁斗と対峙しているにも関わらず、誰かから電話が掛かってきたらしい迅は突然電話に出ると、何やら怪しげな会話をし始める。

(写真と顔が違う…………? その女さえ、手に入れば?)

 聞こえてくる言葉を復唱しながら、郁斗の脳裏に詩歌が浮かび、

(まさか!?)

 郁斗はすぐに今置かれている状況を悟ったようで、急いで小竹に電話を掛ける。

 がしかし、すぐ側で待機している筈の彼が電話に出ない。

 嫌な予感が膨らんだ郁斗は美澄に電話を掛けるけれど、彼もまた小竹同様電話には出なかった。

「クソっ!」

 迅は誰かと電話をしながら郁斗が焦り始めたのを確認すると電話を切り、

「ようやく気付いたか? 悪いな。こっちは既に手を打ってあんだよ。まさか本当に女連れでのこのこやって来るとはな。どうやら郁斗の部下は頭の悪いのしかいないみてぇで大変だなぁ」

 可笑しそうに笑いながら郁斗を刺激する。

「……迅! 詩歌をどうするつもりだ?」
「決まってんだろ? 黛に引き渡す」
「そんな事はさせねぇよ」
「へぇ? どうするつもりだか知らねぇが、やれるもんならやってみろよ。ほら、早く行ったらどうだ? ま、もう手遅れだと思うけどな」

 挑発されているのは分かっていたけれど、今はすぐに状況を確認しに行くしかない郁斗は迅の笑い声を背に小竹が待機している筈の場所へ向かってひた走る。

「小竹! 美澄!」

 そして、車が二台停まっているそのすぐ横に、複数人から襲撃されたのか、傷だらけの小竹と美澄が折り重なるように倒れていた。
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