優しい彼の裏の顔は、、、。【完】
「おい! 大丈夫か?」

 二人の側には鉄パイプがいくつか落ちていて、いきなり殴られた事が容易に想像出来る。

「…………っ、郁斗……さん、」
「小竹!?」
「すみ……ま、せん……」
「詩歌は連れてかれたんだな?」
「…………はい、すみ……ま、せん」
「分かった、もういいから喋るな」

 小竹は苦しみながらも何とか意識を取り戻すも美澄は反応すらなく、恐らくこのままにしておけば助かるかどうかも怪しいといった状況だった。

 ひとまず小竹に話さないように告げると、恭輔に電話を掛けた。

「恭輔さん、悪いけど至急応援を頼みたい。場所は――」

 いつになく切羽詰まった声で電話をして来た郁斗にただ事ではないと察した恭輔はすぐに組員に連絡をして詩歌捜索と小竹、美澄を病院へ連れて行く為の要員を集めてそれぞれ仕事を割り振った。

 電話を終えた郁斗は美澄と小竹を車の中へ寝かせると、再び迅の元へ戻って行く。

「使えねぇ部下は死んだか?」
「んな訳ねぇだろ。アイツらは丈夫が取り柄なんだよ。それより、詩歌をどこへ連れてった? すぐに黛には引き渡さねぇだろ?」
「さあな」

 郁斗は迅がすぐに黛組、もしくは苑流に詩歌を引き渡すとは考えにくく、手下に捕らえさせて一旦どこかへ隠し、何らかの取り引き材料として引き渡すつもりなのではと考え、恭輔たちが匿われている詩歌を探し当てる為の時間を稼ごうとするも、

「俺も忙しいんだ、いつまでもテメェと話してる時間はねぇから、そろそろ行くぜ」

 迅の言葉と共に突然猛スピードで近付いて来たワゴン車は迅のすぐ横で停まり、

「お待たせしました、迅さん」
「それじゃあな、郁斗。俺が女を引き渡すまでに辿り着けるといいな」

 ドアが開くと同時に泰典が顔を出すと、迅は捨て台詞を吐いてそのまま車に乗り込み、運転手に車を出すよう合図をすると、車は再び猛スピードでその場を去って行った。

「迅っ! クソ!」

 あっという間の出来事で郁斗は為す術なく、一人その場に残されてしまった。
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