優しい彼の裏の顔は、、、。【完】
「……ん……」

 その頃、詩歌は市街地から離れた周りが雑木林に囲まれ、昼間でもあまり人気のない寂しい場所に建つボロアパートの一室で拘束され床に寝かせられていた。

 連れて来られる際、背後から薬のようなものを嗅がされて意識を失った彼女がようやく目を覚ますと、すぐ目の前に座る迅の姿が目に入る。

「ようやく目が覚めたか」
「……貴方、は?」
「俺は郁斗の知り合いだ」
「郁斗……さんの?」

 未だ寝惚けているのか、状況が掴めていない詩歌は郁斗の知り合いだという迅を起き上がって見上げようとするも、自身の身体が後ろ手に縛られて拘束されている事に気付く。

「これは? あの……私……」

 何が何だか分からない詩歌は恐怖を感じて身体をばたつかせるも、

「暴れるな。大人しくしてた方が身の為だぜ?」

 煙草を吹かしながら空いている手で拳銃を握った迅は、慌てふためく詩歌に銃口を向けながら静かに言った。

「あ……いや…………っ」

 拘束され、状況すら分からないまま恐怖を感じている詩歌に追い打ちをかけた迅のその行動は、彼女を黙らせるには充分過ぎる。

 拳銃を向けられた詩歌は恐怖から言葉を発する事すら出来なくなってしまう。

 何故このような事態になっているのか、震える身体を落ち着けようと小さく深呼吸を繰り返しながら考える。

(……確か、美澄さんと郁斗さんや小竹さんの居る所へ向かって…………小竹さんが待機しているところに合流した時…………)

 気を失う前の記憶を必死に辿っていくと、美澄や小竹と居る際、突然複数の男たちが現れたと思った刹那、自分を守ろうとしてくれた美澄や小竹が鉄パイプで殴られ、大声を上げようとしていたところを背後から鼻と口を覆われて薬を嗅がされた事を思い出した。
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