優しい彼の裏の顔は、、、。【完】
「何だ何だ? 郁斗は樹奈って女じゃなくて、嬢ちゃんを助けに来たってか?」

 まるでこの状況を楽しむかのように笑みを浮かべた迅は詩歌に向けていた拳銃を持ってドアへと向かって行く。

「迅!!」
「そう喚くな。聞こえてるよ。今、開けてやるさ」

 叫び続ける郁斗に聞こえるように迅が言うと、鍵を開けた。

「入れよ、郁斗」

 そして、拳銃を構えながらドアのすぐ横に立った迅は郁斗へ中に入るよう促した。

(駄目! このままじゃ、郁斗さんが危ないっ)

 その一部始終を見ていた詩歌は郁斗に入らないよう伝えたいのに、恐怖からか思うように声が出なくなっていた。

 詩歌の心配をよそに、玄関のドアが開いた、その瞬間、

 互いに銃口を向け合った二人が対峙する。

「まぁ、こうなるか」
「当たり前だろ? テメェ相手に警戒しねぇはずねぇんだよ」

 郁斗は迅が銃を構えている事に気付いていたようで用心しながら中へ入り、迅と同じタイミングで銃口を向ける事が出来たのだ。

 これには詩歌も驚き、目を見開いていた。

「……いく、と……さん……」
「詩歌……無事だったか。待ってろよ、今、助けるから」

 詩歌を安心させる為のその台詞。

 郁斗には何か策でもあるのかと思ったものの、状況は決していいものでは無かった。

 一対一でのやり合いならば、勝てる勝算はいくらでもある。

 しかし今は詩歌という人質がいる。

 郁斗にとってはこの上なく不利な状況なのだ。

 そしてそれは詩歌自身、痛い程よく分かっている。

 自分の浅はかな行動のせいで、郁斗だけではなく美澄や小竹にまで迷惑を掛けてしまった事を後悔していた。
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