優しい彼の裏の顔は、、、。【完】
「いくと……さん……やめて……」

 ロシアンルーレットなんて無謀とも言える勝負は止めて欲しい。そんな思いから詩歌は必死に訴えかける。

「……なぁ郁斗、良いだろ? お前が勝てば、嬢ちゃんと共にここから無傷で出れる。そうだろ?」
「ああ、そうだな……」

 この勝負に絶対勝ち目が無い訳ではないが、迅相手に下手な小細工をしたところで見破られてしまうだろう。

 かと言って何の小細工も無しに勝負を受けるとなると、最早運任せになってしまう。

 詩歌が居なければ、それも有りだと郁斗は思う。悪運は強い方だと自負しているから。

 しかし今は、確実に詩歌と共にここを出る事が最優先。

 となると、一か八かのこの勝負を受ける訳にはいかないのだ。

「……悪いが、今は止めておく。お前と完全に二人って状況なら、俺はいつでも受けてやる」
「はっ! そんなにこの女が大切か? そうかそうか。それじゃあ仕方ねぇな。俺はもう女を連れて出ねぇと間に合わねぇ。テメェにはここで死んでもらう」

 そして、迅のその言葉と共に再び二人は銃を構え、互いに銃口を向け合った。

(取引き材料の詩歌を殺す事はしねぇだろう。狙いは俺だ……けど、もう一度迅の手に渡れば、確実にこの場から連れ去られる……)

 詩歌の元へ近付けば彼女を危険に晒してしまい、かと言って迅より詩歌から離れようとすれば、迅が近付き彼女を盾として逃げるかもしれない。

(こうなると、もうアイツより先に引き金を引くしか……)

 お互いの出方を待っているのか、瞬き一つせずに互いを注視した、その時、

「迅……お前、俺を待たせるつもりなのか? 随分偉くなったなぁ」

 足音立てずに近付き、そう声を掛けて来た人物が一人。

「ま、黛さん……約束の時間までまだ数分ありますよ?」
「数分で片がつくのかよ? そいつ、結構な手練だろ? 俺は待たされるのが嫌いなんだよ。知ってんだろ?」

 現れたのは詩歌の行方を探していた黛組の組長――黛 弥彦だった。
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