優しい彼の裏の顔は、、、。【完】
「黛さん……殺ったのか?」
「ああ」
「そうっすか」

 車に戻ってきた黛に郁斗を殺したのかと尋ねた迅。

 そんな二人の会話を聞いていた詩歌は、黛が肯定した事によって全身から血の気が引いていくのを感じていた。

 そして、

「……嘘……ですよね?」
「あ?」

 何とか絞り出して言葉を発した詩歌に、横に座り眉を(ひそ)めながら迅が彼女を見やる。

「郁斗さんを、殺したなんて……嘘、ですよね?」

 震える唇で再度問い掛ける彼女に、助手席に座っている黛は斜め後ろに座る詩歌に笑みを見せながら言う。

「嘘じゃねぇよ。この手で始末してやった。鬱陶しい蝿は始末しねぇとだろ」と。

 それを聞いた詩歌は窓の外に視線を向けながら、

「嘘っ…………いやっ!! 郁斗さんっ!! 郁斗さん!!」

 届かないと分かっていてもそう叫ばずには居られず、何度も郁斗の名前を呼んだ。

 そんな詩歌を鬱陶しく感じた黛は迅に、

「おい、その女を黙らせろ」

 そう指示をする。

 一瞬面倒そうな表情を浮かべた迅は窓の外に顔を向けて叫び続ける詩歌の後頭部に拳銃を突き付け、

「おい、それ以上騒ぐな。郁斗はもう死んだ。お前がどんなに叫んだところで生き返りはしねぇんだよ」

 追い打ちを掛けるように郁斗が死んだ事を伝えると、諦めたように黙り込んでしまった詩歌は静かに涙を流す事しか出来なくなってしまうのだった。
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