優しい彼の裏の顔は、、、。【完】
 一方、病院に運ばれ手術を終えた郁斗は、詩歌に名前を呼ばれた気がして目を覚ます。

「…………詩歌?」

 目を開けた郁斗は天井を見つめながら、痛む身体を起こそうとする。

「郁斗さん! 駄目っすよ! 今は絶対安静なんすから!」

 そこへ用事を済ませて病室へ戻って来た美澄が駆け寄り、郁斗が動くのを慌てて制止した。

「……美澄……お前、無事だったのか?」
「いや、当たり前っすよ。俺も小竹もあの程度じゃ死ぬわけないって。ただ、俺らのせいで詩歌さんが攫われちまって……本当に、申し訳ないです……すいません」

 美澄や小竹も普通の人からすれば重症ではあったものの、他より身体が多少丈夫に出来ているらしく、少しの痛みさえ我慢すれば動く事に支障はないらしい。

 ただ、自分たちが詩歌を守りきれなかった事を悔いているようで、いつもの元気は無い。

「いや、詩歌については、俺の落ち度だ。正直黛があそこまでイカれた奴だとは……思ってなかった。迅もなかなかイカれた奴だが、それ以上だ……」
「郁斗さん……」
「美澄、恭輔さんは?」
「一旦事務所に戻ってますが、また顔見せに来るって言ってたんで直に来るかと」
「そうか……。詩歌の行方は、分かってるのか?」
「それがまだ。黛の奴、至る所に伝手があるせいか、何処に匿っているか、まだ見当がついてない状況らしいっす」

 美澄のその言葉に、郁斗を悔しさを滲ませる。

 あの時、詩歌を助ける事が出来なかった自分が許せなかった。

(……詩歌、必ず、助けてやるからな)

 だからこそ、絶対に助け出す。次こそ命を失う事になっても彼女だけは、守りきる。

 そう、密かに心に誓っていた。
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