優しい彼の裏の顔は、、、。【完】
「郁斗さん、捜索って言っても、何か宛はあるんすか?」

 恭輔の了解を得た郁斗は美澄や小竹を連れて事務所を出ると、車の中で今後どうするかを話し合う。

「そうだな……一番は黛と繋がりのある迅に会いに行くのが早いな……」
「その迅って人と連絡取れるんですか?」
「いや、アイツは抜かりの無い奴だからな、足がつかないよう常に連絡先を変えてるはずだ」
「それじゃあ、どうするんすか?」
「まあ待て、こういう時こそ情報屋の出番だ。ちょっと頼んで迅の奴を(おび)き出す」

 郁斗の考えはこうだ。

 まず、神咲会の方で保護されたという詩歌の現保護者である花房 慎之介や四条に協力を仰ぎ、売春斡旋と薬の密売について稼げる嘘の情報を流して迅を誘き出すというもの。

 それにはそういう世界に関わっている人間の協力が多数必要なので、情報屋に頼んでその筋の人間を金で雇い、あたかも嘘の情報では無い事を全面的に出して信じ込ませる必要があるのだ。

「黛は迅以上に抜かりの無い奴で、頭もイカれてる。他人を巻き込む事も躊躇わねぇ。とにかく一刻も早く詩歌を見つけて助けねぇと命が……危うくなりそうだ。詩歌が大人しくアイツに従っていれば、まあ命くらいは保証されるだろうけどな……」

 そんな郁斗の心配は、現実になりそうな状況になりつつある。

 それというのも囚われた詩歌は数日間泣き続けた後、流石に疲れ、涙も枯れ果てたのか、ほぼ飲まず食わずの状態も相俟ってかなり衰弱しつつあったからだ。
< 123 / 192 >

この作品をシェア

pagetop