優しい彼の裏の顔は、、、。【完】
「おい、いい加減食い物口にしねぇと死ぬぞ?」
「……いいです、別に……死んでも」
「あ? 本気で言ってんのか?」
「……はい」
「クソ可愛げのねぇ女だな、お前」

 詩歌を捕らえたはいいものの、好みとかけ離れた容姿になり、更には反抗的な態度を見せる彼女に日々不満を募らせていた黛。

「……そんなに望むなら殺してもいいが、迅の奴に大金払っちまってんだ、このまま殺すだけじゃ大損だよな……」

 気に入らない人間はさっさと排除したいと思うも詩歌を手に入れる為に迅に大金を払ってしまった黛はただ殺してしまうのは惜しいと考える。

「……店に売り飛ばすにしても、多少食わせないとこんなやせ細った女なんて大した額じゃ売れねぇし……いっそ、臓器でも売るか……?」

 死んでもいいと思ってはいても、実際殺されそうになると分かると、詩歌に恐怖が訪れる。

「なぁ、お前はどうしたい? 死ぬつもりなんだ、どんな結末になっても問題ねぇよな?」
「……っ」

 微かに反応した詩歌に気付いた黛は彼女の髪を掴み上げて強引に自身の方へ向かい合わせる形を取ると、彼女自身に選ばせようとする。

「けど、俺は優しいから最後はお前に選ばせてやる。俺好みの女になって一生俺の傍で暮らすか、風俗に売り飛ばされて身も心もズタボロにされるか、臓器提供の為に殺されるか……さあ、好きなのを選べよ」

 しかも、どの選択をしたところで良い未来は無い。

(……郁斗さん……私は、どうすればいいですか?)

 こんな男の言いなりで一生を終えるくらいならいっそ、外の世界へ出て助けられる事を待つか、それとも、自分のせいで死んでしまった郁斗の元へ行く為に殺されるか……詩歌にとっては後者二つの選択肢しか選ぶつもりは無かった。
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