優しい彼の裏の顔は、、、。【完】
「はは、いいなぁ、そういう恐怖に怯える表情(かお)。他の男の名前を呼んで助けを乞う。無理矢理犯してる感じが増して最高だ」
「嫌っ!! 離して!!」

 黛はどこまでもイカれた男だった。

 女を抱くのに、同意なんて必要ない。

 寧ろ、他の男のモノを横取りしたり、恐怖に怯える女を抱く方が好きという歪んだ性癖を持った男なのだ。

 そうなると恐怖に怯え、郁斗を想う詩歌は黛にとってこの上なく萌えるシチュエーションなのだろう。

 縛られているので足をばたつかせて逃れようと必死に抵抗する。

 しかし、そんな行動黛の前では無意味だ。寧ろ嫌がれば嫌がるだけ、彼を興奮させてしまうのだから。

「うるせぇなぁ、観念してヤられろよ。初めてだし、多少は優しくしてやるからよ」
「いやっ! 止めてぇ!!」

 分かってはいても、やはり抵抗せずにはいられない詩歌は未だ止めようとしない。

 そんなやり取りが何度か続くと黛は『はぁ』っと盛大な溜め息を吐き、何故か詩歌を拘束していた腕の縄を解くと、こう命じたのだ。

「……そんなにヤられたくなきゃ、一つだけ、逃れる方法を教えてやるよ」
「……え?」

 一体どういう風の吹き回しだろうか。黛は訳の分からない事を言い出した。

(何? いきなり……)

 もしかした、逃れられるのかもと一瞬だけ期待したのも束の間、

「助かりたけりゃ、今から夜永を呼び出して、お前があの男を殺せ」
「……え? 何言って……」
「あの男を殺したら、お前を自由にしてやってもいい。どうだ? 取引だ。自分の身を犠牲にするか、男を殺して自分が助かるか、二つに一つ。どっちか選べよ」

 またしても意味の分からない選択を強いられた詩歌は落胆し、絶望した。
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