優しい彼の裏の顔は、、、。【完】
 けれど、郁斗を殺して自分が助かるなんて、そんな未来は要らないと思っていた。

(…………っ、そんなの、もう、考えるまでも、ないよ……)

 覚悟を決めた詩歌は黛を真っ直ぐに見つめると、

「……郁斗さんを殺して自分が助かるくらいなら……私は、自分を犠牲にします……」

 睨みつけながら、そう口にした。

「そうかよ。そうまでして、あの男が大切って訳だ。泣かせるねぇ。ま、その威勢の良さに免じて、俺も一つ考えを変えた」

 詩歌の決意を聞いた黛は何やら新たな案を思いついたらしく、こうつけ加えた。

「お前を餌に夜永を誘き出して、アイツの自由を奪った上で、目の前で犯してやるよ。その方が愉しいだろ?」
「何で……どうしてそんな事を!? 私を犯したければ今ここですればいい! 郁斗さんを巻き込むのは止めて……彼は、私のせいで巻き込まれただけなの……これ以上……迷惑かけたくない……だから……っ」
「うるせぇよ。俺の決定には逆らうな。テメェは囚われてる身なんだぜ? 口答えしてんじゃねぇよ!」
「きゃっ!!」

 詩歌の言葉が癇に障ったのか、苛立ちを露わにした黛は拳を振り上げると、手加減もせずに思い切り彼女を殴り飛ばす。

「…………っ、……いくと、さん……」

 そして、その拍子に壁に激突した詩歌は郁斗を思い浮かべつつ、そのまま意識を失ってしまうのだった。
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