優しい彼の裏の顔は、、、。【完】
 一方、迅に連絡を取ろうと情報屋を通じて下準備しているさ中、恭輔から電話が掛かってくる。

「はい?」
「郁斗、実はな――」

 恭輔からの電話の内容は、思いがけないものだった。

「――黛から直接、俺の元へ連絡が来た」
「……は? 直接?」
「ああ。それでな、その内容なんだが、郁斗、お前を指名して来たんだ。『花房 詩歌を解放して欲しければ、夜永 郁斗一人だけを指定した場所へ寄越せ』と」

 郁斗からしてみれば願ってもない話だが、誰がどう考えても罠でしかない事が分かる。

「……郁斗、分かってると思うがこれは罠だ。誘いに乗るのはやめた方がいい」

 郁斗は恭輔が言いたい事も分かっていた。だから、恭輔は黛から事務所へ送られて来た写真の事は伏せていた。

 送られて来た写真は、傷だらけの詩歌が椅子に拘束されて座らされているもので、場所はどこかの倉庫のような建物である事が窺える。

 こんな物を見せれば郁斗はすぐにでも、誘いに乗って飛んでいくだろう。

 それだけは避けようと考えたのだが、詩歌を大切に思っている郁斗の気持ちも分かるからこそ、恭輔は本当にこれでいいのか悩んでいた。

 しかし、そんな恭輔の悩みは郁斗の言葉によって無駄な事だと思い知らされる。
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