優しい彼の裏の顔は、、、。【完】
「……出来ればこのまま東京で生活をしていきたいって思っています」
「うーん、まあ家に戻りたく無い気持ちは分かるけど、どうやって生活していくつもりなの?」
「……その、どこかで働き口を見つけて……」
「詩歌ちゃんはいくつなの?」
「十九です」
「これまで働いた経験は?」
「……恥ずかしながら、ありません。だけど、何でもやるつもりです」
「そうは言うけど、住む所だって決めなきゃならないでしょ? 厳しい事を言うようだけど、色々と難しいんじゃないかな?」

 郁斗の言う事は最もだし、それは詩歌も重々承知している。けれど、彼女の中で京都の実家へ戻るという選択肢は存在しないので、何としてでも東京で生活の基盤を築きたいのだ。

「それにさ、キミの義理の父親や婚約者がこのまま黙って見過ごす訳も無いと思うよ? それなりに財力があるなら、探偵なりを雇って必ず詩歌ちゃんを探し出すと思う。その辺の対策とか、考えてる?」
「…………いえ、そこまでは……。やっぱり私、考えが甘過ぎますよね……」

 郁斗に問われ、自身の考えの甘さに気付かされた詩歌は項垂れ、再び俯いてしまう。

 そんな彼女を前にした郁斗は暫し何かを考えた後、項垂れたままの詩歌にある提案を投げ掛けた。

「まぁ、どんな仕事でも良いって言うなら、寮完備の仕事を紹介する……けど、これには相当の覚悟が必要になるよ」

 郁斗の唐突な提案に詩歌は顔を上げると、戸惑いの色を浮かべながら彼に問い返す。
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