優しい彼の裏の顔は、、、。【完】
「……恭輔さん、分かってるよ。これは罠だって。けどさ、黛は本当にイカれた奴だ。女だからって容赦するような男じゃない。今も詩歌が辛い目に遭ってるかと思うと、例え罠だと分かってても、じっとなんてしてられねぇよ」

 極道の世界はいつなんどきでも気は抜けない。危険なんて当たり前の世界だ。

 恭輔だって、過去に愛した女の一人くらいいた。

 けど、彼は女を危険に晒したくないからと、自分が若頭に上がった段階で全てを捨てた。

 以降恋愛などというハンデにしかならない事は一切興味を持たなくなった。

 だからこそ、罠だと分かっていても大切な女を助ける為に命を懸ける、そんな郁斗の覚悟を尊敬し、いくら止めても無駄だと改めて実感したのだ。

「――分かった、お前の覚悟は相当のようだな。それと、黛から写真が送られて来た。状況から見て、あまり良いものとは言えない。指定して来た場所はマンションだが、詩歌が囚われているのは別の場所のようだ。俺らは写真から彼女は倉庫のような場所に監禁されていると推測したから、片っ端から捜索する。郁斗、気を引き締めて、行って来い」
「はい」

 電話を切った恭輔はすぐに送られて来た写真を撮ると郁斗に転送した。

「……詩歌……待ってろよ。必ず、助けてやる。もう少しだけ、待っててくれ」

 痛々しい詩歌の姿を見た郁斗は何とか怒りを抑えると、

「美澄、小竹、俺はこれから黛の元へ向かう。マンションの部屋に行くのは俺一人だが、言われた通り馬鹿正直に単身乗り込む訳にはいかねぇ。向かいながら作戦立てるぞ」
「はい!」
「それじゃあ俺、急いで車回してきます」

 恐らくこれで、全ての決着がつく。

 郁斗はどうするのが一番最善か頭をフル回転させながらひたすら策を練っていた。
< 130 / 192 >

この作品をシェア

pagetop