優しい彼の裏の顔は、、、。【完】
 愛も何も無い行為は、思いの外早く終わった。

 初めての詩歌にとって、こんなものなのかという印象だった。

 本当なら抵抗もしたかったし、嫌がりたかった。

 だけどそれをすれば、郁斗に危害が加えられてしまうだけでなく、彼の目の前で犯される事になる。

 それだけは、何としても避けたかったのだ。

「つまらねぇ女だな。可愛げもねぇし。ま、これから調教してけば変わっていくか。そうだ、これ飲んどけよ。子供(ガキ)なんか出来たら面倒だからな。そこに水のペットボトルがあんだろ、それで飲めよ」

 事を済ませた黛は大した反応も示さなかった詩歌に文句を垂れると、ズボンのポケットから薬の入った小袋を投げ渡す。

 彼の台詞から、その薬は恐らくアフターピルなのだろう。

 黛が部屋から出て行くと、詩歌はすぐにペットボトルを手に取り薬を飲んだ。

 一人になった室内、皺の寄ったシーツや床に散らばった自身の下着や衣服を目にした詩歌は悲しみが込み上げてきたらしく、徐々に視界が歪む。

「…………っ…………」

 こんな目に遭うくらいならいっそ、ここで死にたいと思うくらい悲しくて辛くなった詩歌。

 それでも、もしかしたら郁斗が助けてくれるのではという僅かな希望を捨ててはいなかったから、どんなに辛くても負けてはいけないと自分に言い聞かせていた。

(危険な目に遭わせたくないって思ってるのに……助けを期待するなんて……おかしいよね……。でも、郁斗さんは……きっと、来てくれる……きっと……)

 下着と衣服を身に付け、ベッドの上に倒れ込んだ詩歌は瞳を閉じて郁斗を想う。

(次に目が覚めた時……郁斗さんが居たら……いいな……)

 そんな夢物語みたいな願望を抱きながら、色々な事に疲れてしまった詩歌はそのまま眠りに就いていた。
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