優しい彼の裏の顔は、、、。【完】
「美澄、悪いが小竹と二人で至急事務所へ戻って金を受け取って来てくれ」
『金、ですか?』
「ああ、詩歌を助けるのに必要なんだ。頼む」
『いや、でも二人で行くのは……』
「額がデカいから、万が一の事も考えて二人居る方が安心だ。頼む、俺なら一人で問題ねぇから」
『……分かりました、行ってきます』

 そして、美澄と小竹に金を取りに行かせた郁斗は電話を切り、

「金はすぐに用意出来る。だから、居場所を教えてくれ」

 再度黛と詩歌の居場所を迅に尋ねた。

「すげぇな、市来組は一千万をすぐに用意出来んのかよ」
「……いや、こんな事もあろうかと予め金をすぐに用意出来る手筈を調えていただけだ」
「へぇ? 頭が回るな、お前は」
「頼む、早く教えてくれ」
「駄目だ。金と交換だ」
「……っ、無茶苦茶言ってんのは分かってる! ただ、こうしてる間にも黛は詩歌に何をするか分からねぇんだ! 金は確実にやるから、居場所を教えてくれ!」

 迅相手に何か言ったところで、彼の意見を覆す事が出来ないと分かっていても言わずにはいられない郁斗は何度も頭を下げて教えを乞うけれど、彼は聞く耳を持たず煙草に火を点けた。

「……郁斗、お前よぉ、いい加減諦めたらどうだ?」
「何と言われようがそれは出来ない……守るって、約束しちまったから」
「たかがそんな事でか? はあ……俺には分からねぇなぁ……」
「俺だって、彼女と出逢うまでは分からなかったさ。初めは好奇心から彼女を傍に置いただけだったんだけど、いつしか惹かれてたんだよ、詩歌に」

 そして、はぁーっと煙と溜め息を吐き出した迅は、ポケットから一枚のコインを取り出しながら、

「…………やっぱり分からねぇな。おい郁斗、一発勝負だ。これで、お前が勝てば、先に居場所を教えてやる。負けたら金が来るまで教えねぇ。退屈しのぎにゃ丁度いい勝負だろ?」

 そう勝負を持ち掛けた。
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