優しい彼の裏の顔は、、、。【完】
迅が持ち掛けてきたのはコイントス。
表か裏かを当てる、ただそれだけ。
「分かった」
これならロシアンルーレットとは違って命を落とす事は無いので、郁斗は要求を飲む事にした。
迅は右手を握り、親指で弾きやすいように人差し指にコインを乗せる。
そして、親指を強く上に向けて弾いた。
するとコインは回転しながら彼の手の甲へ落ちていき、そのタイミングで迅がコインを隠す。
「さてと、郁斗、コインは表か、それとも裏か。どっちだ」
正直、これは完全に運だ。
イカサマも出来なくはないが、迅はそういうのを嫌う傾向にあるのを郁斗は分かっていた。
一瞬考えた郁斗は自身の選択を信じて、「裏だ」と答えた。
それを聞いた迅が左手を退けると、
「……ッチ、相変わらず運の良い奴め。お前の勝ちだな、郁斗」
面白くなさそうな表情を浮かべながら、迅が手の甲にあるコインを見せながら言った。
「約束だ、居場所を教えてくれ」
「へいへい。場所はこの紙に書いてある。そこは黛のプライベートルームだから、結構な確率で寝起きをしてる。あの女を自分好みに躾けるとか言ってたから、暫くそのマンションに置いておくはずだぜ」
「そうか。分かった。美澄や小竹には伝えておく。金は二人から受け取ってくれ」
「おいおい、本当に平気なのかよ? お前の舎弟って阿呆だろ? 俺、刺されるとか嫌なんだけど」
「そんな事しねぇよ。二人はそこまで馬鹿じゃねぇし、詩歌救出が最優先だから、余計な事はしねぇって」
「……ならいいけどよ」
話を終えた郁斗は迅を残して部屋を後にした。
すると、一人残された迅の元に黛から電話がかかってくる。
「――はい」
「迅、夜永はどうした?」
「あー、それが、罠だって分かってんのか、現れないっすね」
「何? 本当なのか?」
「はい」
「金払ってんだから、それに見合った働きをしねぇと、割に合わねぇんだが?」
「いや、そうは言っても、この場に来なきゃどうにもならないし」
「…………どんな手使っても探し出せ。金は上乗せしてやるから」
「…………いくらだ?」
「あ?」
「いくら上乗せしてくれる?」
「とりあえず百万だな」
「……そうか、百万か……。ま、もう少し待ってみて、それから考えるって事でいいか?」
「……まあ、いい。とにかく、何が何でも仕留めろよ」
黛との電話を終えた迅は煙草を吸いながら、窓の外に視線を向けると、
「……これは貸しだぜ? 郁斗」
そう呟きながらスマホを床に置くと、飲みかけのビールの缶を傾け、スマホに直接掛けて水没させた。
表か裏かを当てる、ただそれだけ。
「分かった」
これならロシアンルーレットとは違って命を落とす事は無いので、郁斗は要求を飲む事にした。
迅は右手を握り、親指で弾きやすいように人差し指にコインを乗せる。
そして、親指を強く上に向けて弾いた。
するとコインは回転しながら彼の手の甲へ落ちていき、そのタイミングで迅がコインを隠す。
「さてと、郁斗、コインは表か、それとも裏か。どっちだ」
正直、これは完全に運だ。
イカサマも出来なくはないが、迅はそういうのを嫌う傾向にあるのを郁斗は分かっていた。
一瞬考えた郁斗は自身の選択を信じて、「裏だ」と答えた。
それを聞いた迅が左手を退けると、
「……ッチ、相変わらず運の良い奴め。お前の勝ちだな、郁斗」
面白くなさそうな表情を浮かべながら、迅が手の甲にあるコインを見せながら言った。
「約束だ、居場所を教えてくれ」
「へいへい。場所はこの紙に書いてある。そこは黛のプライベートルームだから、結構な確率で寝起きをしてる。あの女を自分好みに躾けるとか言ってたから、暫くそのマンションに置いておくはずだぜ」
「そうか。分かった。美澄や小竹には伝えておく。金は二人から受け取ってくれ」
「おいおい、本当に平気なのかよ? お前の舎弟って阿呆だろ? 俺、刺されるとか嫌なんだけど」
「そんな事しねぇよ。二人はそこまで馬鹿じゃねぇし、詩歌救出が最優先だから、余計な事はしねぇって」
「……ならいいけどよ」
話を終えた郁斗は迅を残して部屋を後にした。
すると、一人残された迅の元に黛から電話がかかってくる。
「――はい」
「迅、夜永はどうした?」
「あー、それが、罠だって分かってんのか、現れないっすね」
「何? 本当なのか?」
「はい」
「金払ってんだから、それに見合った働きをしねぇと、割に合わねぇんだが?」
「いや、そうは言っても、この場に来なきゃどうにもならないし」
「…………どんな手使っても探し出せ。金は上乗せしてやるから」
「…………いくらだ?」
「あ?」
「いくら上乗せしてくれる?」
「とりあえず百万だな」
「……そうか、百万か……。ま、もう少し待ってみて、それから考えるって事でいいか?」
「……まあ、いい。とにかく、何が何でも仕留めろよ」
黛との電話を終えた迅は煙草を吸いながら、窓の外に視線を向けると、
「……これは貸しだぜ? 郁斗」
そう呟きながらスマホを床に置くと、飲みかけのビールの缶を傾け、スマホに直接掛けて水没させた。