優しい彼の裏の顔は、、、。【完】
「紹介して貰える仕事っていうのは、どう言った内容のものでしょうか?」
「……まあ、簡単に言うと接客業だよ。但し、普通とはちょーっと違うけど。そうだね、婚約者がキミにやらせたかった事に近いかもね」
「……それは、その……どんな要求にも、応えなければならないような?」
「そういう事」
「…………」
「無理でしょ? けど、住む場所も確保出来て足もつかなくて働ける所なんて、そういうとこしか無いと思うよ?」

 現実を突き付けられた詩歌に最早選択の余地は無く、郁斗の言う仕事を紹介してもらうか家に戻るかの二択になってしまう。

 だけど、どうしても選ぶ事の出来ない詩歌はふと、ある事を思いつくと駄目元で、

「郁斗さん、お願いします。私を匿って貰えませんか? ここへ置いてくれるなら、何でもしますから……どうか、お願いします」

 彼に自分をここへ置いて欲しいと頼み込んだのだ。

 それには流石の郁斗も驚き、思わず目を見開いて彼女を見る。

(……この子、自分が何を言ってるのか、分かってんのかな)

 正直詩歌のその発言に郁斗は半ば呆れていた。ここまで付いてくる事さえ狼狽(うろた)えていて、さっきも絆創膏を貼るのに指が触れただけで反応して顔を赤くするような女が何を言い出すのかと。

「あのさぁ、詩歌ちゃん。何でもの意味、分かってる?」
「――い、くと……さん?」

 全く危機感が感じられない彼女に自身が口にした言葉の意味が分かっているのかを問いただす為、郁斗は詩歌に迫ると驚く詩歌をそのままソファーの上に押し倒し、脅えた瞳で見つめる彼女に(またが)ると、無言のまま見下ろしていた。
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