優しい彼の裏の顔は、、、。【完】
 詩歌は声を上げて助けを求めたいと思うも、それをした事によって宅配業者の人の命が奪われてしまうのならばそれは出来ないと唇を噛む。

 だけど、黛は詩歌が声を出そうが出すまいが、どのみちこの宅配業者を襲って部屋に引き入れるつもりだった。

 詩歌を脅す材料には何かが必要だと考えていたから。

 拳銃を構えながら玄関前にやって来た黛は鍵を開け、ドアノブに手を掛ける。

 そして、扉を開いて開けた、次の瞬間――

 男に拳銃を突きつけようとした黛同様、宅配業者の男もまた、黛に向かって拳銃を向けていたのだ。

「お前……何でここに?」
「ここじゃ人目につく。ひとまず中へ入れてくれ」
「…………ッチ。入れよ」

 黛は忌々しそうな表情を浮かべながら、相手の男を中へ招き入れる。

「もう一度聞く、どうしてお前がここに居るんだよ――夜永」

 そう、黛の言葉通り、この部屋を訪れて来たのは宅配業者なんかではなく、宅配業者に扮した郁斗だったのだ。

「お前は既に気付いてんじゃねぇのか? 悪いが、迅は買収させてもらった」

 郁斗の声が聞こえた瞬間、詩歌は震える身体でベッドを降り、ゆっくり歩いて部屋を出る。

 そして、

「……郁斗……さん……」
「詩歌ちゃん……」

 男物なのか、大きめのTシャツ一枚だけを身に付けた詩歌が姿を現し、ようやく二人は再会する事が出来たのだ。
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