優しい彼の裏の顔は、、、。【完】
「おいおい、感動の再会ってヤツか? そんなの気が早ぇんだよ。おい女! さっさと部屋へ戻ってろ。言う通りにしねぇと、どうなるか分かってんだろうな?」
「…………っ」
「詩歌ちゃん、大丈夫だから、今は部屋に戻ってて。必ず、ここから救い出すから」
「……分かり、ました」

 黛に言われ部屋へ戻る事を躊躇っていたものの、郁斗にそう言われた事で頷き、後ろ髪引かれる思いで部屋へ戻って行く詩歌。

「随分余裕あるじゃねぇか? まるで勝算があるような言い方だな?」
「そりゃな、こんな所に単身乗り込んでくんだから、何も考え無しな訳ねぇだろ?」
「ははっ! 面白ぇ! ならその考えとやらを是非聞かせて欲しいなぁ」
「そんなの、直に分かる事だ」

 お互い拳銃を向けたまま、会話を続けていく。

 部屋に戻った詩歌は郁斗のその言葉に、根拠は無いものの確実な勝算があるのだと密かに感じていた。

 そして、自分の身は自分で守ろうと、黛が隠し持っている他の銃をクローゼット奥にしまってあった箱から取り出し手にした。

 これは詩歌が眠っている時に黛がクローゼットを漁っていたのだが、その物音で詩歌は目を覚ましていて、気付かれないよう寝たフリをしながら様子を窺い、隠し場所を覚えていたのだ。

 ただ、銃を手にしたところで詩歌に扱えるはずもないのだが、もしもの時の保険として手にしていようと思い震える手で握っていた。

 郁斗と黛は互いの出方を待っているらしく、睨み合ったまま動かない。

 けれど、これこそが郁斗の狙いだった。

 ここへ来る直前恭輔から連絡があり、黛の追放処分が正式に下された事を知った。

 それなので神咲会をはじめ、各組織にも協力を仰ぎ、黛を確保する為このマンションを包囲するよう頼んでいた。

 それこそ黛に気付かれないよう慎重に。

 そして、もうそろそろ全ての準備が整うだろうという頃合を見計らった郁斗は、

「黛、そろそろ終わりにしようぜ」

 そう口にしながら、構えていた銃を床に置いた。
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