優しい彼の裏の顔は、、、。【完】
「何の真似だ?」
「俺に戦う意思はねぇって事だよ」
「はあ?」
「なぁ、詩歌の傍に行ってもいいか?」
「訳分からねぇよ。何なんだ? 何を企んでやがる?」
「別に、何も。ただ、詩歌の傍に居たいだけだ。沢山、不安にさせたし、辛い思いもさせたからな。少しでも安心させてやりてぇんだよ。なあ、いいだろ? 俺は今、丸腰だ。何も出来はしねぇよ」
「お前の事だ、信用出来ねぇな」
「俺は何もしない。怪しい動きをすれば、すぐに俺を撃てばいいだろ?」

 郁斗が何を企んでいるのか怪しむ黛だが、詩歌の居る部屋に窓はあるもののベランダ側でもなければこの部屋は十階なので飛び降りる事も出来ない。よって逃げ場は無いので一緒にしても問題無いと判断したのか、

「まあ良い。但し、少しでも怪しい動きをすれば撃ち殺す。お前じゃなくて、女をな」
「分かった」

 詩歌の傍に行く事を許可した黛は拳銃を郁斗に向けたまま、詩歌の居る部屋へ入ると、

「おい女! テメェ何持ってやがる!?」

 銃を握っている詩歌を目にし、再び怒りを露わにする。

「やっ! こ、来ないで……!!」
「詩歌ちゃん!」

 これには郁斗も驚き、彼女に駆け寄ろうとするも黛に制されてしまう。

「動くな!! 夜永、お前も動くな。おい女、それを置け! 今すぐ置け!! でないと撃つぞ!」

 これまで受けた恐怖から、身を守りたい一心の詩歌は震える手で銃を黛へ向けている。

「詩歌ちゃん、それを置いて。大丈夫だから。俺が今、傍に行くから。だから、それを置いて、早く」

 けれど郁斗の言葉で少しだけ落ち着きを取り戻したのか、言われた通り床に銃を置いた。
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