優しい彼の裏の顔は、、、。【完】
 少し考えた詩歌は、

「私、養子縁組を解消はしません。血の繋がりはなくても、お義父さまは、私にとって、父です。それは、この先も変わらない」
「……詩歌……」
「だけど私、政略結婚だけは嫌なんです。四条さんの事が嫌いだからという訳じゃないんです。ただ私は、好きな人と……一緒になりたい。それが、一つの夢なんです」

 詩歌の思いを聞いた四条は、

「私の方は今日、婚約解消のお願いに参りました。ですから、貴方が気に病む事はありません。花房さんも、それで納得してくれていますから」

 慣れていないのか、ぎこちなく笑顔を向けながら詩歌にここへ来た理由を伝えたのだ。

「四条くんの言う通り、お前を縛ったりはしない。お前はもう、自由だ」
「ありがとうございます、四条さん、お義父さま」

 郁斗が見守る中、詩歌は彼らと和解し、これからは自分の好きなように生きていける事になったのだった。

「良かったね、色々と問題が片付いて」
「はい」
「それより、良かったの? 一度家に帰らなくて」
「いいんです。今はまだ、帰る必要が無いから」
「ふーん? それで、詩歌ちゃんはこれからどうするつもりなの?」

 話し合いを終えてホテルを後にした詩歌と郁斗は近くの海浜公園へとやって来ていた。

 そこで、今後の事を聞かれた詩歌は少し黙った後、

「……あの、郁斗さん……。私、これからも郁斗さんのマンションで一緒に暮らしても……良いでしょうか?」

 遠慮がちにそう尋ねた。
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