優しい彼の裏の顔は、、、。【完】
STORY1
「それじゃあ、今日からここはキミの家って事になるから、遠慮しないで好きに過ごしてね」
「は、はい。ありがとうございます……あの、郁斗さん」
「ん?」
「その、何もしないで住まわせて貰うのは申し訳ないので、何か、私に出来る事はありませんか? 仕事も、私に出来るような事があれば……」
「うーん、別に俺は気にしないけどなぁ。あ、とりあえず俺、これから約束あって出なきゃならないからさ、この話はまた後で。ごめんね」

 詩歌の申し出に考え込み頭を悩ませていた郁斗はふと時計に目をやると約束の時間が迫っている事に気付き、この話は一旦終いと言って立ち上がる。

「お仕事……ですか?」
「うーん、まあ、仕事と言えば、仕事かな?」
「……?」

 何故か質問を疑問で返された詩歌は首を傾げるも、あまり聞かれたくない事なのだと理解してそれ以上は何も口にしない。

「日付けが変わるまでには戻って来るから、詩歌ちゃんはここに居てね。何か食べたい物があればこの電話で頼んでくれていいから。このマンションはコンシェルジュが居てそこに繋がるから、メニュー表の中から好きな物を頼んでくれて構わないよ。料金は全てカード払いになってるから、その辺も気にしなくていい」
「は、はい……ありがとうございます」
「それじゃあ、行ってくるね」
「はい、行ってらっしゃい……」

 本当にあまり時間に余裕が無いらしい郁斗は少し慌てた様子で詩歌に説明をすると、そのまま部屋を後にした。

 一人残された詩歌は緊張の糸が切れてしまったのかソファーに倒れ込むように横になると、先程郁斗が言った“ここに居る間のキミの安全は俺が保証する”という言葉に安堵したのか、昨夜からの移動距離と見つかるのではないかという恐怖やこれからの生活への不安が一気に解消されたのと同時に激しい睡魔に襲われ、人様の家のソファーで眠るなんてと思いながらも、睡魔に勝てなかった詩歌はそのまま眠ってしまうのだった。
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