優しい彼の裏の顔は、、、。【完】
 BARから助け出された樹奈は市来組の知り合いが経営しているという個人病院に搬送された。

 身体の衰弱はしているものの幸い大した怪我もしていないので、三日程度安静にしていれば退院出来る事になった。

「気分はどうだ?」
「……あ、はい。だいぶ、良くなりました」
「そうか、それは良かったな」

 樹奈が入院している間、恭輔は何かと気にかけて何度か彼女の病室を訪れていた。

「あの、巽……さん」
「恭輔でいいと言ったろ?」
「で、でも……」

 樹奈は助け出された時に郁斗や恭輔たちが市来組という組織の人間で、更に恭輔がそこの若頭である事を知ってか、そんな相手を名前で呼ぶのはどうかと名字で呼んだものの訂正されてしまい戸惑うも、

「名字で呼ばれ慣れねぇから構わねぇよ」
「……そうですか。それじゃあ、恭輔……さん」

 本人たっての希望ならばと納得して名前を呼び直す。

「何だ?」
「あの、白雪ちゃん……じゃなくて、詩歌ちゃんは、無事なんでしょうか?」
「……それに関しては、まだ調査中だ」
「……やっぱり、私のせいで……」

 樹奈は自分が迅と関わったせいで詩歌が捕らわれてしまったと思っているが、詩歌に関しては樹奈の事が無かったとしても起こっていた事案なので彼女がそこまで気に病む事も無いのだけど、詳しい経緯を知らない樹奈は自分のせいだと思い悩んでいた。

 そんな樹奈を見兼ねた恭輔は側にあった椅子に腰掛けると、

「別に、お前だけのせいじゃねぇよ。詩歌に関しては他でも動いていて、恐らくお前の事が無かったとしてもいずれ捕らわれていた。だからお前がそこまで気に病む必要はねぇんだ」

 これ以上悩まないよう気にしなくていいと話してきかせるも、

「でも……私、……」

 恭輔の言葉を聞いてもなお自分を責めようとする樹奈の瞳には、涙が滲んでいく。
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