優しい彼の裏の顔は、、、。【完】
 女に泣かれるのが苦手な恭輔は樹奈が泣き出しそうになったからか反射的に彼女の身体を引き寄せると、

「泣くな。泣いても状況は変わらねぇ。詩歌は俺たちが捜索してるし、必ず見つけて助け出す。だから、お前が詩歌に対して悪いと思っているなら詩歌が戻って来た時、彼女の力になって寄り添ってやればいい。そうだろ?」

 泣いたり悲観するのではなく自分に出来る事をすればいいと、恭輔なりに慰めてみる。

 そんな風に言われるとは思わなかった樹奈は恭輔の言葉に小さく頷くと、

「……はい。私、彼女が助かったら、きっと、彼女の力になります……」

 彼の言った通り詩歌が助かったその時は、必ず彼女の力になろうと心に誓うと、恭輔の胸の中で静かに涙を流す。

 そんな樹奈を泣き止ませようと恭輔は暫く樹奈の背中を撫で続けながら、彼女が泣き止むのを待っていた。

 それから暫く経ち、樹奈は落ち着きを取り戻した。

「……恭輔さん、ありがとうございました」
「何がだ?」
「その、あの時助けてくださった事と、今も慰めてくれて」
「別に、特別な事をしたつもりはねぇよ」
「……でも、私は、嬉しかったです……」
「そうか。まあ、早く元気になれよ」
「はい」
「それじゃあ、俺はそろそろ帰る」

 言って恭輔が椅子から立ち上がり帰ろうとすると、

「あ、あの、恭輔さん」
「ん?」
「……あの、退院したら、私に、何かお礼をさせてください!」
「礼? んなもん要らねぇよ」
「嫌です! それじゃあ私の気が収まりません」
「……分かったよ。それじゃあ、退院して落ち着いたら、ここに連絡して来い」

 お礼をしたいという樹奈の申し出を受ける事にした恭輔は胸ポケットから名刺を一枚取り出すとそれを樹奈に手渡した。

「それじゃあな」
「はい」

 貰った名刺を嬉しそうに持つ樹奈を前に自然と表情が緩んだ恭輔。

 そんな彼が病室を出て行くのを、樹奈は笑顔で見送った。
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