優しい彼の裏の顔は、、、。【完】
「えっと、その、先日退院しまして、色々と落ち着いたので……改めてお礼を……」
「ああ、そうか。退院おめでとう。行けなくて悪かったな。ちょっと色々と立て込んでてな」
「いえ、そんな! 色々とお世話になりました。助かりました」
「当然だろ。お前は巻き込まれたようなもんだしな」

 確かに、樹奈は詩歌絡みで巻き込まれはした。けれど、自分も普段から結構危ない人たちと関わりがあったと自覚もしていたから、一概に巻き込まれた被害者とも思えなかった。

「いえ、これは自分の撒いた種でもあります。仕事柄、危ない人との付き合いも無かったとは言えませんし……」
「まあ、そう思っているなら、これからは気をつけろ。危険な組織の人間は腐る程いる。女は特に、付け込まれる事も多いからな」
「はい、気をつけます」
「それで、用件はそれだけか?」
「あ、えっと、その……この前もお伝えしたと思いますが、何かお礼がしたいです」
「礼と言ってもな……その気持ちだけで十分なんだが」
「でも……」

 お礼がしたいと言ってはいるものの、具体的に何をすればいいのか分からない樹奈。

 恭輔としても特にそれを望んでいる訳ではないのだけど、断っても樹奈は納得しない事を分かっているので、

「なあ樹奈、今から少し出られるか?」

 突然、そんな言葉を投げ掛ける。

「今から、ですか?」
「ああ。礼をしたいというなら、今から少しだけ付き合って欲しい所があるんだが、どうだ?」

 突然の誘いでしかも夜中なので、提案した恭輔もどうかと思ってはいたけれど、彼はこれから少し行きたい所があったのでその同行を樹奈の言う『お礼』に出来ないかと話を持ちかけた。

 そんな恭輔の言葉に樹奈は、

「分かりました、それならば是非、お願いします!」

 驚きはしたものの恭輔の希望に添えるならと喜んで話を受けた。
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