優しい彼の裏の顔は、、、。【完】
(……話題……何かないかな……)

 なかなかきっかけになる話題が思いつかず、いつの間にかそれが表情にも表れていたのか、何やら困り顔で悩んでいる樹奈に気付いた恭輔は何となく彼女が考えている事が分かったのか、

「……ただ乗ってるだけは、退屈か? 悪いな、誘っておいて、ろくに話題を振る事も出来なくて。まあ見ての通り、俺は会話するってのがあまり得意じゃねぇんだよ」

 視線は前に向けたまま、樹奈にそう声を掛けた。

「い、いえ! その、私の方こそすみません! キャバ嬢のくせに場を盛り上げる事も出来なくて……」
「別に場を盛り上げて欲しいとは思ってねぇよ。つーか、そんな事思ってたのか? キャバ嬢っつっても、あんなの金が発生してるから客に尽くしてるだけで、プライベートまでそんな事を気にはしねぇだろ、普通」
「た、確かに……そうかも?」

 きっかけは恭輔の自虐からだったので樹奈にとって気まずい内容だった気はするが、結果的にここから会話は広がりを見せていく。

 普段、会話が苦手な恭輔はそもそも異性も苦手で、こうして助手席に女を乗せる事など、もう十年くらいした事が無い。

 若頭に上がってからというもの市来組の為に身を粉にして働き続け、気付けば年齢は三十八歳。

 恋愛など若頭に上がると同時に感情諸共全てどこかへ置いて来た恭輔は一生独身を貫く覚悟なので、こうして女と二人きりになる状況は正直イレギュラーな案件だった。

 けれど不思議と樹奈と居る空間は何やら心地良い空気を感じていて、自分でも驚く程、恭輔は心穏やかに過ごせていたのだ。
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