優しい彼の裏の顔は、、、。【完】
「……ありがとう、ございます……」

 樹奈が差し出された手を素直に取ると、二人は手を繋いで歩き出す。

 繋がれた手からは、互いの温もりが伝わり合う。

(……何だか、不思議な感じがする)

 手を繋ぐなんて大した事じゃないはずなのに、樹奈の心は騒がしい。

(本当に、どうしちゃったんだろ……私)

 車に乗った時といい、今といい、明らかに恭輔を意識している自分に戸惑っていた樹奈。

 それから暫く歩みを進めていくと、

「うわぁ―、綺麗!!」

 山道に入った辺りから木々が増え、駐車場からつい先程まで辺り一面に木が生い茂っていた事もあって、ほぼ暗闇みたいで怖さもあった。

 けれど、園内奥の方へ差し掛かると辺りを覆っていた木々は無くなり、その分景色が堪能出来るようになった途端、樹奈の視界には星空が飛び込んで来た。

「綺麗だろ? ここはな、穴場なんだよ」
「……もしかして恭輔さんは、この景色を見る為に、ここへ?」
「ああ。俺、好きなんだよ、静かな場所で星を眺めるの」

 恭輔のその言葉に、樹奈は少しだけ意外だと思った。

(恭輔さんって、天体観測が趣味なんだ……)

 樹奈のイメージとしては、景色とか夜空になんて、興味が無さそうだと思っていたから。

「……意外か?」
「……いえ、そんな事は……」
「隠す必要はねぇさ。俺自身、こんな趣味は似合わねぇと思ってるし」
「……正直に言うと、ちょっと意外だなって思います」
「だろ?」
「でも……素敵な趣味だと思います。私も、こういうのは好きです。車が無いから一人では来れないけど、ふとした時に一人になって全てを忘れたいって思う事、あります。綺麗なものを見ると心が洗われて、また頑張ろうって思えるんですよね」

 樹奈の言葉を聞いた恭輔は、驚いていた。

 自分と、全く同じ考えだったから。

(本当、不思議な女だな、コイツは。一緒に居ると、何だか心地が良い)

 そして、樹奈の戸惑いと同じように恭輔もまた、樹奈に対して不思議な感覚を覚えていた。
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