優しい彼の裏の顔は、、、。【完】
「……えっと、その……実は私、悩んでて……」
「俺で相談に乗れる事なら、話してみろ」
「……その、今後の、身の置き方について……です」
「今後の……とは?」
「……店長からはこのまま店を続けて欲しいと言われているんですけど、私は、このままキャバ嬢を続けていて、いいのかなって……思って……」
「……気が進まないのか?」
「…………そうですね、なんて言うか、これまではその、郁斗さんに振り向いて欲しくて頑張っていたところがあるんです。そもそもキャバ嬢になったのも、郁斗さんの勧めがあったからなので……」
「お前は郁斗に惚れていたのか?」
「はい。だから、詩歌ちゃんが現れて……郁斗さんの近くに居るのが面白くなくて、……私っ……、本当に、嫉妬なんて、醜い……馬鹿みたい……っ」

 郁斗と詩歌の話をすると樹奈の中であの日の事が思い出されてしまい、意志とは関係なしに身体が震え出し、自分の嫉妬から二人を危険に晒してしまった事を悔しく思った。

 そんな樹奈の肩を抱いた恭輔はグッと引き寄せると、前を向いたまま言葉を紡いだ。

「嫉妬は別に、醜いモノじゃねぇよ。寧ろそれだけ相手を想っていた証拠だ。恥じる事は無い。ただ、想っていても、その想いが相手の想いと交わるかは分からないし、違う事もある。それは分かるな?」
「……はい」
「その時はこう思えばいい。自分を想ってくれる人は、別にいるんだと。郁斗には、詩歌だった。それだけだ。決して、樹奈(おまえ)に悪い所がある訳じゃない。悲観するな。お前を想ってくれる奴はきっと、現れるさ」
「…………恭輔……さん……」

 その言葉に、その人が恭輔だったらいいのにと樹奈は思ったけれど、自分に自信の無い樹奈はそれを口にする事もせず、これも彼の優しさだと心に受け止めながら、

「……ありがとうございます」

 感謝の言葉を口にして、零れそうになる涙を静かに拭った。
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