優しい彼の裏の顔は、、、。【完】
 それから三十分程過ごした二人は来た道とは別の道から車へと戻って来る。

「素敵な場所に連れて来てくださってありがとうございました。だけど、何だかこれじゃあお礼にならない気がします」
「礼は必要無いと言ったろ? こうして付き合ってくれただけで充分だ」
「でも、本当はお一人の方が良かったんじゃないですか?」
「まあ普段なら一人で来るが、誰かと見るのも悪くは無いな」

 恭輔の言葉に、樹奈はふと思う。

(……えっと、今の言い方だと、普段は誰かと来ない……って事だよね? 私なんかが一緒で、良かったのかな?)

 それを確認しようかどうしようか悩んでいると、二人が座席に着いたタイミングで恭輔のスマホの着信音が鳴り響き、「悪い、少し待っててくれ」と言いながら再び車の外へ出て電話の相手と話始めた。

 その光景を車内からぼんやり見つめていた樹奈は、途中で恭輔の表情が険しい物へ変わるのを目の当たりにする。

(……何か、あったのかな?)

 直感的にそう感じた樹奈は、少しだけ不安になる。

 それからすぐに電話を終えた恭輔が車の中へ戻って来ると、彼の言葉で樹奈の予感は的中した事が分かった。

「悪い、もう暫く俺に付き合ってくれ」
「……何か、あったんですか?」
「…………ああ、詳しくは話せねぇが、これから少し危険な状況に陥るかもしれねぇ。けど、お前の事は俺が守るから心配するな。ただ、お前の顔が知れ渡るのは好ましくねぇんだ。これを被ってなるべく顔は伏せててくれ」

 恭輔はそう説明しながら後部座席に置いてあったフード付きのウインドブレーカーを樹奈に手渡した。

「……分かり、ました」

 恭輔の話を聞いた樹奈は受け取った大きめのウインドブレーカーを着ると、フードを目深に被り、シートベルトを締めて下を向く。

 これから危険な事が起こるかもしれない、それは樹奈にとってただただ恐怖でしかない。

 けれど、恭輔が言ってくれた『お前の事は俺が守るから心配するな』という言葉を信じ、車が発進すると共に目を閉じた。
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