優しい彼の裏の顔は、、、。【完】
 それから少しして、電話を終えた恭輔が部屋に入ると、ソファーにもたれかかって眠る樹奈の姿が目に飛び込んできた。

「……ったく、ベッドで眠ればいいのに」

 そう呟いた恭輔は眠る樹奈の身体を抱きあげると、ベッドの上に寝かせて自分がソファーの上に寝転んだ。

(樹奈も暫く起きねぇだろうし、俺も仮眠取るか……)

 少し身体を休めたらすぐに部屋を出るつもりでいた恭輔だったのだが、樹奈も寝てしまって起こすのも気が引ける事や、自身も長時間の運転でそれなりに疲弊していた事もあり、少しの間仮眠を取ろうとそのまま目を閉じた。

 それから一時間程が経った頃、樹奈が夢にうなされ始め、それに気付いた恭輔が目を覚ます。

 樹奈は例の一件以降、時折こうして夢にうなされる事が増えていた。

 けれど、それを誰にも相談出来ず、夢から覚めては孤独と恐怖に苛まれて眠れなくなってしまい、最近は短時間しか眠れない事も多かったりする。

「……っ!!」

 いつもの様に夢から覚めた樹奈は飛び起きるように身体を起こす。

 彼女の息は上がり、額には汗も滲んでいる。

 そして、いつもこの後は一人孤独と恐怖に耐えるのだけど、今日は違っていた。

「大丈夫か?」
「…………ッ、恭輔……さん」
「だいぶうなされていたようだが、こういう事は、よくあるのか?」

 恭輔に声を掛けられ、よくあるのかと聞かれた樹奈は、答える代わりに首を縦に振る。

「そうか。少し息があがってるな。落ち着いて、ゆっくり深呼吸しろ」

 そんな樹奈の横に腰掛けた恭輔は、彼女の身体を抱くと、落ちつかせるように優しく背を撫でる。

 恭輔に言われた通りゆっくり深呼吸をした樹奈は徐々に落ち着き、恭輔の温もりの暖かさに安堵したのか、瞳から涙が溢れ今にも零れそうになっていた。
< 187 / 192 >

この作品をシェア

pagetop