優しい彼の裏の顔は、、、。【完】
 それに気付いた恭輔は背中を撫でていた手を止めると、樹奈の身体をギュッと抱き締めながら、

「泣きたいなら我慢するな。泣いた方がスッキリする事もあるだろう? それと、不安に思う事があるなら話してみろ。言葉にすると、楽になれるから」

 優しい声でそう告げた。

 そんな恭輔の言動に驚いた樹奈だけど一番欲しかった言葉だけに、我慢出来なくなってしまい、

「……っ、ひっく……、私、……ずっと、苦しくて……っ、眠って、こうして夢にうなされるたび、一人が、怖くて……っ」

 涙をポロポロ零しながら、胸に秘めていた思いを口にしていく。

「そうか、今までよく頑張ったな。けど、もう頑張らなくていい。ここで全て吐き出せ。俺が聞いてやる。一人で悩まなくていいから」
「……恭輔……、さん……っ」

 樹奈にとって今の恭輔の言葉は何よりも嬉しくて、夢にうなされるから眠るのが怖い事、目を覚ました時、部屋に一人で居ると息を吸うのも吐くのも苦しくて、いっそ死んで楽になりたいと思ってしまう事、安心させてくれる温もりが欲しい事を包み隠さず話していく。

「樹奈、お前は不器用なんだな。もっと人を頼る事を覚えなきゃ駄目だ」
「でも……私には、頼れる人なんて、いないから……」
「それなら、これからは俺を頼れ。何時でもいい。だから、どんなに辛くても死にたいなんて言葉は、口にするな」
「恭輔さん……」
「ヤクザの俺がこんな事を言っても説得力ねぇかもしれないが、命は大切にしろ。死んだら全てが終わっちまうんだ。それこそ、死の間際に後悔しても遅い。お前だって、それはよく分かるだろ? あの日、死にたくないと思ったろ? 助かった時、嬉しかったろ? その気持ちを忘れるな」
「……っ」
「大丈夫だ、俺が傍に居てやる。お前の恐怖も孤独も、俺が全て、取り除いてやる」
「……え……?」
「不思議だな、お前は。他の女と違って、お前と居ると何だか心地良い。泣いてるお前を、放っておく事が出来ねぇ。お前にだけは頼られたいって、思っちまう」
「……恭輔、さん……?」
「樹奈、俺の女になれ。傍に居て、笑ってて欲しい。その代わり、お前の不安は全て俺が取り除いてやる。どんな危険からも守ってやる。孤独なんて感じる事の無いくらい、お前の全てを満たしてやる」
「恭輔さ――」

 恭輔は樹奈の身体を一旦離すと、名前を呼びかけた彼女に口付け、そのまま身体をベッドへ押し倒していった。
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