優しい彼の裏の顔は、、、。【完】
「――とまあ、半ば勢いで身体の関係を持った……っていうのが始まりだったかな」
「そうだったんですね」
「お互い同じ気持ちだったって分かった時は嬉しかったから、勢いでも私は後悔してないの」
「だけど、恭輔さんって勢いとかそういう感じで恋愛を始める印象が無かったので、少し意外です」
「そうだね、それは本人も後から言ってた。周りからのイメージがあるから、それもあって話したがらないっていうのも大きいかな」
「きっとそうですね。だけど私は樹奈さんの事が大好きで、心配性な恭輔さんの方がいいと思いますけどね」
「あはは、確かにね。私もそうだよ。だけどそんな姿組員には絶対見せないだろうなぁ。せいぜい郁斗さんくらいだよ」
「郁斗さんですら、素の恭輔さんの姿はなかなか見られないみたいですよ」
「そうなんだ? 本当、徹底してるなぁ」

 恭輔との馴れ初めを話す樹奈はどこか嬉しそうで、気分が優れないと嘆いていた彼女に元気が戻っている事を詩歌は嬉しく思っていた。

「そういえば、その……恭輔さんと御付き合いする事になった後、ホテルからは無事に帰れたんですか?」
「ああ、うん。ホテルからは無事に帰れたよ。ただ、予定よりも大幅に部屋を出るのが遅くなっちゃったから心配した組員の人が確認しに来ちゃって、ちょっと気まずかったけどね」
「そうなんですね。まあ確かに当初は少し休むだけ、だったんですものね」
「そうそう。それが寝てただけじゃなくて、その後でセックスしてたんだもんね。周りが知ったら何してんのって話しよ、本当に」

 そして再びそれからの事を掻い摘んで話した樹奈。

 結局ホテルを出てから樹奈の自宅まで送ってくれたものの、相手に樹奈の顔を見られているかもしれない事を懸念した恭輔は自分の元へ置く方が安全だと考え、とりあえず必要な荷物を纏めさせてそのまま恭輔の自宅に住む事になり、周りには樹奈の安全の為だと言い聞かせ、交際を始めた事を内緒にしたままで同棲生活を始めたのだという。

 一通りの話を終えたタイミングで恭輔と郁斗が仕事を終えて帰宅して来た。

「ただいま」
「お邪魔します」
「お帰りなさい」

 何やらいつになく上機嫌な樹奈を前にした恭輔が「何だ? 何か良いことでもあったのか?」なんて呑気に尋ねるも、周りに言いたがらない交際のきっかけを勝手に話したとは言えず、「何でもないですよ。多分詩歌ちゃんと色々お話出来たから、かな?」と誤魔化しながら樹奈は可笑しそうに笑っていた。
< 190 / 192 >

この作品をシェア

pagetop