優しい彼の裏の顔は、、、。【完】
「まあいいが、井筒にいつまでも逃げ回られちゃ帳尻が合わねぇからな。きちんと金は回収しねぇとならねぇ。分かってるな?」
「勿論。美澄たちが無理なら、俺が直々に探しに出向きますよ」
「頼んだぞ。そうだ、郁斗、お前この後暇だよな?」
「まあ、暇……ですけど?」
「なら『PURE PLACE』と『ONLY ONE』に行って店の様子見て来い。何か問題があるようなら報告してくれ」
「了解しましたー。それじゃ、行ってきます」

 恭輔に仕事を頼まれた郁斗は軽い返事をして部屋を出て行った。

『PURE PLACE』はキャバクラ、『ONLY ONE』はホストクラブ。そのどちらも指定暴力団関東連合【神咲会(かんざきかい)】の傘下組織でもある【市来組(いちきぐみ)】が経営に携わっている。

 恭輔はその市来組の若頭で、組長とは旧知の仲だと言われている。郁斗は恭輔や組長に気に入られている特別な男で彼らは皆、正真正銘のヤクザなのだ。

 ただ、ヤクザと言っても神咲会は『堅気の人間には極力迷惑をかけない。やたら無闇に人を傷付けたりもしない。違法薬物や賭博はご法度』という独自の任侠道を掲げている、至極真っ当な組織と言える。

 そして、郁斗は最初から組織に入っていた訳ではなく、初めは『ONLY ONE』のNO.1ホストとして女性に癒しを与える存在だったのだが、代わり映えのしない毎日に飽きてしまった彼はその後、顔の広さを生かしてスカウト業に勤しんでいた。

 その途中で恭輔や組長と知り合った事で組織に興味を持った郁斗が直々に頼み込んで市来組に加入をして今に至る。
< 20 / 192 >

この作品をシェア

pagetop