優しい彼の裏の顔は、、、。【完】
「……詩歌ちゃん?」

 人の気配はあるものの部屋の中は明かり一つ灯ってはおらず、カーテンが開けられたままの窓から辺りのビルやマンションの明かりや夜空の光が差し込んでいる。

 それでも充分明るいと言えるし、ここは最上階で周りの何処よりも高さがあるから窓際に立たない限り中は見えないので、カーテンを開けたままでも別段気にはならない。

 しかし、名前を呼んでも返事すら返って来ないところを見ると、郁斗は詩歌が眠り込んでしまったのだと結論付けて、廊下側に背が向いているソファーを覗き込んでみる。

「…………」

 すると思った通り、気持ち良さそうな表情を浮かべ、寒いのか身体を縮こまらせて肩までブランケットを掛けて眠っている詩歌の姿がそこにはあった。

(あーあ、呑気な顔して眠ってるよ……。本当、危機感ねぇなぁ……)

 彼女の周辺を見渡すと、自分が出て行く前と別段変わった様子も無い事から、昼間から今まで眠っている事が分かる。

(余程眠かったんだろうな)

 詩歌を起こさないよう、少し離れた位置へ静かに座ると、未だ気持ち良さそうに眠る彼女の姿を眺めていた。
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