優しい彼の裏の顔は、、、。【完】
(つーか、今思うと俺、かなり面倒な事背負(しょ)い込んじまったよな……)

 詩歌の話を聞いた郁斗は初めこそ彼女を可哀想だと思いはしたが、自分が何とかしてやろうという考えは全く無かった。

 異性なんて面倒な生き物だと思っている郁斗にとって、仕事で仕方なくというなら分からなくも無いが、自らの意思で異性を自分の部屋に住まわせるなど、本来なら有り得ない事。

(何でだか、放っておけなかったんだよな、コイツの事……)

 そもそもビルの前で助けた事も、普段の郁斗なら有り得ない行動の一つと言える。

 堅気の人間に迷惑を掛けないというのは組の方針で決まっているので守りはするも、人助けという項目は存在しない。助けを求められでもすれば助ける事もあるが、わざわざ自分から助けるような事はしないのだ。

 けれど、詩歌の時は何故か見て見ぬふりが出来なかった。

 今更考えたところでどうにかなる訳でもないと思い直した郁斗は一服しようとポケットから煙草の箱とライターを取り出そうとするも、

(あ、やべぇ……!)

 ライターが手から滑り落ちてテーブルの脚に当たってしまうと、

「うーん……」

 物音に反応した詩歌がもぞもぞと身体を動かし、目を擦りながらゆっくり瞳を開く。

「……ただいま、詩歌ちゃん」

 まだ若干眠そうな詩歌と目が合った郁斗は爽やかな笑みを浮かべて声を掛けると、

「い、郁斗さん!? あれ? 私、少しだけ眠るつもりが、ずっと……?」

 出掛けたはずの郁斗が目の前に居る事や辺りが暗い状況から、自分がずっと眠っていた事を知った詩歌は驚愕した。
< 24 / 192 >

この作品をシェア

pagetop