優しい彼の裏の顔は、、、。【完】
「でもね、うちの組は基本堅気の人間に迷惑をかけるような事はしないし、無闇に人を傷付けない、至極真っ当な組織なんだよ」
「そ、そうなんですか?」

 そう説明を受けるも、そもそもヤクザというものがどんな組織なのかイマイチ良く分からない詩歌は何が普通なのか分からずに戸惑っている。

(郁斗さんは、あまり関わり合いにならない方がいい人……だったんだ)

 しかし、それはもう手遅れというもので、知らなかったとはいえ郁斗の元で世話になると決めてしまった以上、今更やっぱり帰ります、などと言っても止められるだろうし、それではヤクザだと知ったから離れると分かってしまう。

(……真っ当な組織だって言ってるし、郁斗さんも優しい人だから、このままここに居ても、大丈夫だよね……?)

 不安は残るものの、ここを出たところで行き場が無い以上どうしようもない詩歌は不安がるより彼の人となりや彼の仕事の事をもっと理解しようと前向きに考える。

「あの、それじゃあ見回りをしているお店というのは……?」
「ああ、キャバクラとホストクラブの事だよ」
「郁斗さんも、お客様のお相手をしたりするんですか?」
「いや、俺はあくまでも店の状況を見て回るだけだよ」
「そうですか……」

 話を聞いた詩歌は突然、何かを考え込んで黙ってしまい、

「詩歌ちゃん、どうかした?」

 そんな彼女を不思議に思った郁斗が声を掛けると、

「あの、そのキャバクラ店で、私を雇ってもらう事って出来ますか?」

 予想もしていない質問が返ってきた事で郁斗は驚き、一瞬反応する事を忘れてしまった。
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