優しい彼の裏の顔は、、、。【完】
「さてと、それじゃあ早速始めようか。詩歌ちゃん、一度立ち上がってくれる?」
「は、はい」

 店の席に見立ててソファーとテーブルの向かい側にはスツールが置かれている。

「まあ入店したては基本指名された子の席にヘルプとして付く事が殆どだから、そこまで気負う事はないよ。あ、ヘルプがどういう事か、分かるかな?」
「えっと、要するに指名された方の補助……みたいな感じですよね?」
「そうそう。それで、そのヘルプには色々と決まりがあるから、まずはそこから説明しようか」
「はい」
「詩歌ちゃんはあるキャストのヘルプに付く事になりました。指名キャストは俺の左側に座ってるとして、席までやって来た時、詩歌ちゃんならどこへ座る? 自分が思う場所に座ってみて」

 郁斗に問われた詩歌は少し考えた後、彼の右側へ腰を下ろす。

 それが正解かどうか答えない郁斗はそのまま次の話を始めてしまう。

「それじゃあ、指名された子が別の席に接客に行ってる間、客の男と二人きりになった時、相手の男が急に近付いて来たとしたら、詩歌ちゃんはどうする?」
「――!?」

 そして、郁斗は仮説を立てながら隣に座る詩歌の肩を抱くと、身体を強ばらせた彼女に構う事なく自身の方へ引き寄せながら顔を近づけていった。
< 34 / 192 >

この作品をシェア

pagetop