優しい彼の裏の顔は、、、。【完】
 解放された詩歌はゆっくり身体を起こすと、少し乱れた髪を()いて整える。

「詩歌ちゃん、駄目だよ? 嫌なら嫌って早い段階で言わないと。男は基本スイッチ入ったらそうそう止められないんだから」
「……す、みません……」

 詩歌の鼓動は未だ騒がしく、恥ずかしさで郁斗の顔が見られない彼女は俯いたまま言葉を返す。

 確かに、郁斗の言う通りすぐにでも拒絶の意思を表せば良かったのかもしれない。詩歌だって、嫌なら嫌と口にするくらいは出来るのだから。それならば何故、先程郁斗に迫られた時にそうしなかったのか――それは、詩歌自身、郁斗になら身を委ねてしまってもいいという思いが心の片隅にあったからなのだ。

「それはそうと、詩歌ちゃんの寝る場所だけど、今日のところは俺のベッド使ってよ。俺はソファーで寝るからさ」
「え……そんな事出来ません。私がソファーで寝ますから郁斗さんはご自分のベッドで寝てください」
「いいから、キミはベッドを使って。女の子をソファーで眠らせて自分だけベッドでは寝れないよ。詩歌ちゃんがベッドで寝ないって言うなら、ここで二人一緒に寝るしかないよ?」

 郁斗から寝床の話をされた詩歌は自分の方がベッドを使うという事に納得がいかず、ソファーで寝ると申し出ても聞き入れて貰えない事に困り果てていた。

 そして郁斗自身も、自分の発言で詩歌を困らせているという自覚はあるものの男として、そこは譲れないらしい。
< 39 / 192 >

この作品をシェア

pagetop