優しい彼の裏の顔は、、、。【完】
「……それとも、詩歌ちゃんはベッドで二人一緒に寝る方がいいのかな?」

 どうにかしてベッドを使う事を納得してもらおうと郁斗が彼女をからかうような発言を口にすると、

「……はい、私一人がベッドを使うくらいなら……一緒に寝る方を……選びます……」

 思いもしない答えが返ってきて、郁斗は面を食らってしまう。

 しかし、その動揺を悟られないよう表情一つ変えずに彼は、

「そんなに顔を真っ赤にさせながら言っても、説得力ないよ? それに俺、今から少し仕事しなきゃならなくてリビングで作業するから、詩歌ちゃんは遠慮しないで寝室のベッド使ってよ。ね?」

 これ以上詩歌が気を遣わなくて済むよう最もらしい理由をつけてベッドを使って欲しいと伝えると、

「……そういう事なら、分かりました。使わせていただきますね」

 渋々ながらも納得した詩歌はようやく首を縦に振ったのだった。

 詩歌が一人寝室に入ってから暫く、静まり返ったリビングのソファーで横になる郁斗はボーッと天井を見つめていた。

(はあ……無自覚な天然お嬢様ってのは、怖ぇなぁ……タチが悪い……)

 詩歌に迫った時、始めはからかっていただけだった郁斗は一瞬本気になり掛けた事に戸惑いを隠せなかった。

 これまで仕事の為、情報を得る為に女を抱いた事は幾度となくあるし、どんなに綺麗で魅力のある女性に言い寄られたところで本気になる事など無かった郁斗。

 それなのに、迫られた訳でもない、求められた訳でもない詩歌にあんなにも魅力を感じた事が不思議で仕方がなかったし、そんな彼女を求めてしまいかけた自身の不可解な行動にはどうにも納得がいかなかったのだ。
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