優しい彼の裏の顔は、、、。【完】
「郁斗さん、これは一体……」
「ここは奴が(ねぐら)にしていたビルの隣にある潰れたコンビニの中だよ」
「はあ? あそこっすか?」
「あそこはすぐに探しましたけど……」
「本当によく探したのか?」
「勿論!」
「天井裏もか?」
「え? あ、いや……そこまでは流石に……」
「阿呆か。それじゃあ隅まで探したのうちには入んねぇんだよ。隠れそうな場所はどこでもくまなく探せっていつも言ってんだろーが」
「す、すみません……」

 まさか空き店舗の天井裏に潜んでるとは思わなかった美澄と小竹は郁斗に怒鳴られ項垂れる。

 郁斗が恭輔から仕入れた情報によると、井筒は金が返せないと分かっていたので早くから逃走準備をしていたらしく、毎夜空き店舗に忍び込んでは暫く身を隠せるよう食糧やらを運んでいたらしいのだが、それを事前に見越していた恭輔は既に手を打っていて、井筒のアジト周辺の全ての空き店舗や廃ビルのいたるところに隠しカメラを設置していた。

 そして、そのカメラ映像の一つに井筒が映っていて、逃げる様子が無い事からヘマをした美澄と小竹に再度チャンスを与えようと今まで捕えないでおいたのだ。

「――と、いう訳だ。これで逃したら恭輔さんからも見放されるぜ? しっかりやれよ」
「はい!」
「絶対逃しません!」

 居場所が分かればこっちのモンだと美澄と小竹は威勢よく返事をすると、井筒が潜伏している空き店舗へ駆けていく。

 ここまでお膳立てをすれば流石に逃すはずは無いと郁斗はその場を動かず、二人が井筒を捕えて連れて来るのを煙草を吸いながらのんびり待っていた。
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