優しい彼の裏の顔は、、、。【完】
「詩歌ちゃん?」
「え!? あ、すみません……ボーッとしてしまって」
「どうしたの? 何かあった?」
「いえ、本当に何でもないんです。すみません」
「そお? ならいいけど。勤務始まったらそんな風に上の空じゃ駄目だよ? 危険だからね」
「は、はい! 分かってます」

 郁斗に指摘されると、思う事はあるもののそれを聞く事など出来ず、作り笑顔を浮かべた詩歌は何でも無いと答えた。

 彼女のその言葉を信じた郁斗は勤務中にこういう事が無いようにと念を押すと、再び太陽と何やら打ち合わせを行っていた。

 そして、開店時間が近付くにつれて他のキャストたちも出勤してきた事で、太陽から詩歌の紹介が行われたものの、皆興味が無いのか、それとも郁斗の“知り合いの子”だからなのか各々の反応はあまり良いものでは無く、その事で自分は他のキャストたちからあまり歓迎されていない事を詩歌は肌でひしひしと感じとっていた。

 開店してすぐ、続々と常連客たちが店にやって来てキャストたちは自身の客の待つ席へ着いていく。そんな中、太陽は詩歌をどの席に着かせようか悩んでいると、人気No.3の希咲がボーイに詩歌をヘルプに欲しいと頼んで来た。

「それじゃあ詩歌ちゃん、今から君は『白雪』。くれぐれも、お客様に失礼のないようにね」
「は、はい、頑張ります」

 太陽に念を押された詩歌は、ボーイと共に希咲の待つ席へと向かう。

 それと入れ違いに仕事の電話で外に出ていた郁斗が店内に戻って来る。
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