優しい彼の裏の顔は、、、。【完】
 そんな詩歌の姿を遠巻きに見ていた太陽と郁斗。

「詩歌ちゃん、順調そうですね」
「……ああ、そうだな」

 太陽が声を掛けると、何故か不機嫌そうな郁斗は素っ気なく返事をした。

 それには太陽も何か思う事があったようで、それ以上何も言わず再び詩歌の席に視線を戻した。

 そして、副島たちが帰るのを見送りに希咲と詩歌が外へ出る。

「これ、俺の名刺。あんまこういうとこ来ねぇけど、白雪に会いたいからまた来る。次は、指名するから」

 ほんのり酔っ払った大和は少し頬を紅潮させながら自身の名刺を渡し、また会いに来ると約束をした。

 それが嬉しかった詩歌は、

「ありがとうございます! 待ってますね」

 満面の笑みで大和にそう告げると、彼女の笑顔に大和は勿論、副島も魅了されていた。

 タクシーに乗った二人が遠ざかっていくと希咲は表情を一変させる。

「アンタ、初めてにしてはなかなかやるわね。だけど、副島さんまで虜にするの、止めてくれない?」
「え……私、そんなつもりじゃ……」
「その初心そうなところもムカつく。男はそういうのに弱いからね。それに、アンタ郁斗さんの知り合いみたいだけど、贔屓にされ過ぎるとこの店でやってくのは大変よ? 郁斗さんを好きな人沢山いるから。調子に乗ってると、ヘルプに付けて貰えなくなるわ。ま、せいぜい頑張る事ね」

 それだけ言うと、くるりと身を翻した希咲はコツコツとヒールの音を響かせながら店内へ戻って行った。
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