優しい彼の裏の顔は、、、。【完】
「詩歌ちゃん、何かあったの?」

 希咲から少し遅れて店内へ戻って来た詩歌を心配した郁斗がそれとなく声を掛けるも、

「いえ、何でもありません。ずっと緊張していたので、少しだけ外の空気を吸っていたんです」

 何でもないと笑顔で答える詩歌に、それ以上何も聞けなくなってしまう。

「そっか。それで、初めての接客はどうだった? 見た感じ順調そうだったみたいだけど」
「あ、はい! 慣れてきたらお話も出来るようになって、楽しかったです。それに……」

 言いながら詩歌は先程大和に貰った名刺を郁斗に見せ、

「見てください! 先程のお客様から名刺を頂いたんです! 次は指名してくださるとも言っていました」

 無邪気な笑顔を浮かべていた。

 初めての接客で気に入って貰えた事が余程嬉しかったのだろう。大和の事を話す詩歌は終始楽しそうだ。

 しかし、初めこそ良かったと言いながら聞いていた郁斗の表情は次第に曇っていき、

「まあでも、さっきの男が本当に次も来てくれるかなんて分からないよ? 社交辞令って事もあるからね。さ、そろそろ戻って、次のヘルプが来るの待たないと」

 最後は素っ気なくそう言い放つと、郁斗は太陽の元へ戻って行ってしまった。

「……郁斗さん?」

 何故急に郁斗が素っ気なくなったのか理由が分からなかった詩歌の彼を呼ぶ声は賑やかな店内の音にかき消されていった。

 そして、待機部屋に戻ってから暫く、詩歌には新たな問題が生じていた。
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