優しい彼の裏の顔は、、、。【完】
 郁斗が席に座った瞬間、店内はざわめきに包まれる。

 郁斗は稀に客として席に着いては、キャストたちの成績に貢献してくれる。そこは勿論自腹でだ。

 そして彼の事が好きなキャストたちは誰が彼に指名されるのか、それを常に待ち望んでいた。

 最近郁斗が客として座る事などあまり無かった事もあって皆は自分が呼ばれるのではないかと期待する。

 特に出勤した時に今度指名してくれるという約束を取り付けていた樹奈は、自分が呼ばれるのではと思っていたようなのだけど、太陽が郁斗の元へ詩歌を連れて行った瞬間ざわめきは一転、場の空気が凍りつく。

 そして、

「い、くとさん……?」

 席に連れてこられる際、相手が郁斗だと言う事は伏せられていたようで、自分がこれから接客をする相手が郁斗だと知った詩歌は面を食らっていた。

「白雪、ここに居るという事は、俺は客なんだ。俺を満足させられるよう接客をしてみせろ。いいな?」
「は、はい……」

 そして、いつもと違う口調、違う雰囲気を纏う郁斗に戸惑いつつも、これは仕事、せっかく与えられたチャンスなんだと理解し頭を切り替えた詩歌は、

「初めまして、白雪と申します。よろしくお願いします」

 先程の接客同様、きちんと姿勢を正し、綺麗にお辞儀をして見せた詩歌は郁斗の隣の席に腰掛けて接客を始めたのだ。
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