優しい彼の裏の顔は、、、。【完】
 こんな事は、今まで有り得なかった。

 太陽を始め、キャストやボーイたちも皆驚いている。

 それだけ、詩歌は特別なのかと。

 けれど、そんな風に彼女だけを特別扱いすれば、詩歌はこの『PURE PLACE』でやっていく事が厳しくなる。太陽はそれを心配しているのだが、勿論郁斗はその事も全て考えての行動だった。


「……おい、酒の作り方がなってねぇぞ」
「す、すみません……」

 昨夜教わった通りに作ってはいるものの、まだ慣れない詩歌の手つきはどこか頼りなく、グラスに氷を入れる際掴み損ねてテーブルの上に落としてしまう。

 慣れていない事も勿論あるのだけど、詩歌が萎縮している事も失敗する原因の一つであり、その原因というのが郁斗の豹変ぶりだった。

 彼のその豹変ぶりには、太陽を除く全員が驚いている。それというのも郁斗は市来組に居る時以外は常に“紳士”な態度を心掛け、人柄が良く飄々としていて、人畜無害そうな人間で通っているから。

 そんな彼が今は全くと言っていい程別人のように冷たい態度でふんぞり返るように座っている。

 周りは皆別人を見ているような感覚に陥っていた。

 詩歌もその内の一人ではあるものの、これは自分の接客を試す為に打っている芝居なのではと思い、泣きそうになりながらも一生懸命接客を続けていく。
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