優しい彼の裏の顔は、、、。【完】
「何だ?」

 詩歌と話をしていて郁斗の表情がいくらか和らいでいたのに、電話に出た瞬間から一気に表情が険しくなる。

 そして、

「……あのな、何でテメェらはそんな簡単な事も満足に出来ねぇんだよ? それは俺がいちいち出ていく案件か? ちっとはテメェらで考えて行動しろ」

 相手からの内容に納得がいかないのか、多少声のボリュームを抑えてはいるものの、店内では郁斗の声が目立っている。

 それを心配そうに見つめる詩歌に気付いた郁斗は、

「――分かった。これからそっちに向かうから待っとけ」

 それだけ言って電話を切った。

「あの、大丈夫ですか?」
「ああ。ただ悪いがこれから行く所が出来た。帰りも遅くなると思う。仕事が終わったら太陽に送らせるから、家に着いたら勝手に寝てて構わない」
「分かりました」

 本当は詩歌との時間をもう少し楽しみたかった郁斗は重い腰をあげるとボーイを呼んで会計を済ませ、太陽に一言二言話すと早々に店を出て行ってしまう。

 そんな彼の姿を、詩歌は少し淋しそうな表情を浮かべて静かに見送った。
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